ミュージカルだからできること/ミュージカル「忍たま乱太郎」第4弾「最恐計画を暴き出せ!」雑感

前回までの記事におほしさまありがとうございました。

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さて、1月10日は「忍たま乱太郎ミュージカル」を観てきました。

以下、ネタバレも含みますが、それでもよろしい方は続きからどうぞ!

 

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そもそも「忍たま乱太郎ミュージカル」と聞いて、普通の人は何を想像するだろう。NHK教育で朝の10時とかからたまに放送されてる着ぐるみミュージカル的な? それとも劇団○○みたいなところが主催の子どもミュージカル? どちらも不正解で、2010年から半年に一度上演されているこの「忍たま乱太郎ミュージカル」通称「忍ミュ」(もしくは「ミュんたま」)は、テニスの王子様ミュージカルやBLEACHミュージカルと同じ「イケメン若手俳優によるミュージカル」に分類される。ミュージカルの主役は乱太郎ではなく、乱太郎が通う「忍術学園」の先輩たちで、演じるのはD-BOYSやD2などに所属している役者さんなど、いわゆる「イケメン若手俳優」。なぜ忍たまでイケメン若手俳優ミュージカルを、というと、ひとえに忍たまの原作「落第忍者乱太郎」がいわゆる「大きなお友達」に人気が出たからというのに他ならないんだろうけど、しかし、実は「忍たま」と「若手俳優ミュージカル」ってなかなか相性がイイのである。

 

 

忍ミュと他の若手俳優ミュージカルとの大きな違いは、まずなんといっても殺陣だろう。とはいえ、わたしは忍ミュ以外の若手俳優ミュージカルってテニミュをDVDで観たことがあるくらいなので、あまり偉そうなことは言えないんだけど。スポーツ(テニス)を歌とダンスで表現するテニミュと違って、忍ミュはモロに忍者同士の戦闘シーンがある。ガッツリ殺陣がある。しかも、忍術学園の生徒たちにもそれぞれ得意な武器があるので、見ていてすごく面白い。例えば六年い組の食満留三郎という生徒は鉄双節棍というヌンチャクのような武器を得意としているし、六年ろ組の中在家長次は縄鏢という縄の先に鏢をつけた軟器械で敵と戦う。この辺の細かさは原作あってこそで、忍たまってギャグマンガだけど、こういう室町当時の武器についてだったり忍者についてだったりの解説はすごく詳しく描かれているのです。

落第忍者乱太郎(52) (あさひコミックス)

落第忍者乱太郎(52) (あさひコミックス)

こういう武器って扱うのがとても難しいと思うんだけど、俳優さんたちはそれを見事にこなしていて、サマになっていてかっこいい。殺陣の指導をしているのは「ジャパンアクションエンタープライズ」というアクション専門の演技団体の人たちで、また彼らが敵のドクタケ忍者隊も演じている。10代20代の身体能力が高い男の子たちと、プロのアクション俳優の殺陣は、迫力があって見応え充分だ。児童向けマンガである原作や、NHK教育で放送されているアニメの絵柄では、やっぱりここまでの躍動感って出せないなぁと思う。

 

それから、もう一つ面白いな、と思うのは、ミュージカルの主人公を上級生にしている点だ。ともすると「腐受け」「大きいお友達向け」とか叩かれそうな、思い切った決断をしたな、と思う。忍たまってギャグマンガだし、基本的に主人公が年を取らないループものなので、登場人物の成長というところにあまり比重が置かれていない。それゆえに、一人ひとりのキャラクター設定に余白がいっぱいある。登場人物の数自体も多いし、酷い子なんて名前と学年くらいしか分からない(笑)。でもその分、ここのコマでこういう動きしてたからこういう性格なのかな? この子と同じクラスだから仲良しなのかな? ってこっちが想像する余地がたくさんある。そしてその想像を、作者である尼子騒兵衛自身も許容している。忍たまを愛してくれさえいれば、どんな解釈をしようと、この素材を使ってどんな料理をしようと自由だよ~っていうスタンスでいる。だから、いうなればこのミュージカルは忍たま本編のスピンオフであり、演出家さんが「忍たま」という素材を使って演出家さんなりの味付けをして作り上げた料理である、ということ。そもそも、第一弾のストーリーは「六年生の卒業試験」というもので、それに伴う感情の変化・成長も描かれていた。これは、成長・卒業が絶対に無い原作やアニメでは不可能なことで、ミュージカルでしか表現できないことを追求した結果なのかな、とも思う。

アニメにはアニメにしか出来ないことがあって、漫画には漫画にしかできないことがあって、ミュージカルにはミュージカルにしかできないことがある。三者が上手く反応しあって、「忍たま乱太郎」(「落第忍者乱太郎」)という大きな作品がますます面白みを増すのだろうなぁ。メディアミックスって面白いです。

 

忍ミュそのものについて語っていたらずいぶんと長くなってしまったので、最後に今作についても少し触れておく。

わたしが忍ミュを観たのは初代ぶりだったんだけど、初代に比べると随分とマイルドなストーリーになっていた。乱太郎・きり丸・しんべヱの出番も増えていたし、対象年齢が低くなったというよりは、全員まんべんなく見せ場を作れるようにしているんだと思う。初代の厨二っぽさがすごく好きだった身としては、少々物足りなくもあったけど(笑)初代からずっと上演を重ねてたどり着いたのがこの境地ならば、間違いじゃないんだろう。

座長(≒主人公)は毎回六年生の中で持ち回りっぽいのだけど(初代では食満が、今作では小平太が務めていた)、小平太役の林明寛くんはとてもおおらかで明るい人で、彼が座長だったから余計ほのぼのした雰囲気になっていたのかもしれない。

六年生の中ではダントツで食満役の前内孝文くんが気になった。前内くんの中の食満像が、わたしが食満に対して抱いているものととても近くて。食満って他の六年生に比べるとデフォルメされた個性がなくて、それゆえに役作りが難しいのでは、とも思っていたのだけれど、杞憂だった。逆に、三次元に持ってきていちばん三次元らしく等身大の魅力を放出できるキャラクターなのかもしれない。原作の食満はそこまで好き!ってわけでもないんだけど(笑)ミュージカルの食満はかなり好きです。

今作から出演している滝夜叉丸・三木ヱ門・綾部の四年生トリオもとても良かった。特に滝夜叉丸役の樋口裕太くん、ダンスも演技もズバ抜けてかっこいい。難しい役どころだったけど、見事に演じきっていた。カーテンコールで見せた年相応の爽やかな笑顔が、原作で滝夜叉丸がたまに見せる常識人っぷりを彷彿とさせてキュンとした。

それから、やっぱり脇をかためる大人が見事で唸ってしまう。山田伝蔵役の今井靖彦さん、どこからどう見ても山田先生すぎてサイコーだ。山田先生は第一弾からずっと今井さんが演じているのだけれど、もう今井さん以外には考えられない。それくらいナイスキャスティング。顔も声もアニメと似てるし、とにかくアクションがかっこいい。伝子さんになって出てくるシーンの、会場の「ヨッ待ってました!」感がものすごかった(笑)。これからも山田先生として、若手を支えていって欲しいなと思う。

 

今作のパンフレットには、初代からずっと出演を続けている役者さん6人による対談も掲載されていた。第一弾の初演は本当に客が入らなくて、ここまで続けられるなんて思っていなかったそうだ。わたしも、まさかこんなに続くミュージカルになるなんて想像もしていなかった。だけど、三年ぶりに観た忍ミュはすごく楽しくて、こりゃー長く続くわな、って感じだった。第二弾、第三弾を観に行かなかったことが悔やまれる。今後も続くようならば、毎回一公演ずつは観に行きたいな。そう思えるミュージカルだった。